1. キルケランの特徴
(1) キャンベルタウンについて
キャンベルタウンは、スコットランド西部の半島に位置する小さな町です。この小さな地域にはかつて30を超える蒸留所が存在し、アメリカなどへの輸出が盛んだったことから「世界のウイスキーの首都」と呼ばれていました。しかしその後、大量生産による品質劣化やアメリカでの禁酒法、1929年の金融大恐慌の影響により、そのほとんどの蒸留所は閉鎖。現代ではスプリングバンク・グレンスコシア・グレンガイルの3蒸留所のみが残るのみ(キルケランはグレンガイル蒸留所の商品)。
上の地図を見ても分かる通り、左下に小さく存在する。いっそのことハイランド扱いにすれば良いんじゃないかとも思える区分ですが、ここには深い事情が・・・
グレンガイル蒸留所は、もともとスプリングバンク蒸留所を所有していたミッチェル家のウィリアム・ミッチェルによって作られました。これはウィリアムが兄であるジョン・ミッチェルと飼育していた羊に関することで兄弟喧嘩をして、袂を分かって設立されました。その後順調に成長していたものの、冒頭に書いたアメリカ禁酒法のあおりを受け倒産してしまいます。
そして時は過ぎ、2000年。キャンベルタウンに残された蒸留所は2つとなり、ここで大きな問題が起きます。それは「”キャンベルタウン”というウイスキー地域呼称を使用するためには蒸留所数が少なすぎる」とスコッチウイスキー協会(Scotch Whisky Association)から警告が入ったのです。「このままだと、ただのハイランド地方のいち蒸留所になってしまう」と焦ったスプリングバンク蒸留所が旧グレンガイル蒸留所を購入、キャンベルタウン第三の蒸留所(=地域呼称の継続使用が可能になる)として操業を再開したという経緯があります。
(2) キャンベルタウン産のウイスキーの特徴
キャンベルタウン産のウイスキーは、塩気と甘み、そして香水とも例えられる複雑な香味が特徴です(銘柄によってはプラスして柔らかなピート香)。塩気に特徴のあるアイランズウイスキー(例:タリスカー)や華やかな香りのスペイサイドウイスキー(例:グレンリベット)の中間のような印象ですが、単に足して二で割った訳ではない複雑な香味から、根強いファンが多くいます。
(3) キルケランの特徴
(1)で書いた通り、スプリングやの兄弟蒸留所と言えるグレンガイル蒸留所の作るウイスキー、キルケランは、スプリングバンクに似ており、潮気とスモーキーさ、青りんごや干しブドウの香りが豊かな仕上がりとなっています。ただ潮気はスプリングバンクほど強くなく、全体的に落ち着いた印象があります。またもともと、キャンベルタウンという呼称維持のために造られただけあり、そこまで大々的な生産やキャンペーンを行っていないことが幸い(?)し、質の高いウイスキーを安価に堅実に作っているという印象を受けます。
ちなみにシングルモルトの名前がグレンガイルではなくキルケランという別の名前になったのは、グレンガイルというブレンデッドウイスキーが既にあり、欧州大陸での商標で問題があったことや市場の混同を避けるためです。
2. キルケラン12年の特徴
キルケラン12年は、グレンガイル蒸留所の作るスタンダードボトルです。キルケランではこのほかに、8年物のカスクストレングス(シェリー、バーボン)や15年物もありますが、定期的に購入可能な商品はこの12年が主力となっています。
3. キルケラン12年のテイスティング
【商品情報】
・キルケラン12年 / Kilkerran 12 year
・46%
・5000円前後
【香り】
柔らかい潮気とピート香、青りんご、ブドウ、バニラ、塩キャラメル、ナッツ。加水すると柔らかいモルト・ピート香と蜜、バニラが前面にくるも、奥に青りんごや柑橘のフルーティーさも。
【味】
潮気、バニラ、ウエハース、熟し切っていないメロン、柑橘、オレンジピール。ややオイリーでモルトの旨味が強く感じられる。
【フィニッシュ】
飲み込むと喉の奥からコーヒー粉ぽい苦み、柑橘の爽やかさ、ほのかな甘み、塩のかかったピーナッツ
【総評】
変な癖が無く、潮気やピート香、バーボン樽由来のバニラやバター感、シェリー樽由来のブドウ感、爽やかなフルーツ、麦芽と幅広く複雑な風味。突き抜けた面白味は無いものの、安定感がある。色々なシングルモルトを飲む際の、一つの中心的な基準として置きたい味。