(1)ラム酒とは
ラム酒は、主にアメリカ南方のカリブ海の島々である西インド諸島で造られている蒸留酒です。原材料はサトウキビで、廃糖蜜や搾り汁を酵母を使ってエタノール発酵し、それを蒸留(連続式蒸留器もしくは単式蒸留器にて蒸留)することで造られています。”Rum”という語源は諸説ありますが、原住民が蒸留酒を呑んで騒いでいる様子を見たイギリス人が”rumbullion (興奮)の酒”と表現したことが有力とされています。また現在では西インド諸島のみならず、サトウキビが収穫できる日本(沖縄)やタイ、フィリピンなどでも造られています。
風味の特徴としては、シロップのような甘くクリーミーなものから、草やハーブのような強烈な香りがするもの、樽由来のスパイシーな口当たりのものと、かなり幅が広く、飲み方もストレートからカクテルベース、また菓子の材料(ラムレーズンなど)としても使われています。
風味の分類としては、色による分類が一般的です。すなわち、無色透明のホワイトラム、淡い褐色のゴールドラム、濃い褐色のダークラム、と言ったような分類です。この他にも、口当たりの軽い順にライトラム、ミディアムラム、ヘビーラムといった分類をすることもあります。しかし実際問題、このような3分類では綺麗に分けることができず、例えば花の蜜のようなラムもジンのようにハーブ香強いラムも、すべてライトなホワイトラム扱いされるようなこともあります。
そこで今回は、英国ウイスキー小売りWhisky Exchangeが提唱する風味に基づく6分類を紹介し、それぞれの特徴やテイスティングも簡単に紹介しようと思います(サンプルは下の写真を参照。左から順に①→⑥)。各フレーバーのイメージ図もWhisky Exchangeさんのページから引用しました。下記サイトから、それぞれの風味に分類されるラムの検索もできるので、興味のある方はぜひアクセスしてみてください。海外サイトによる分類なので日本産のラムはあまり入っていませんが、日本産ラムは主に②③④に分類されます。
(2)風味による6分類とテイスティング
①ライト&シンプル
複数の連続式蒸留器で作られたもので、ライトでスムーズな飲み口。カクテル向き。
・バカルティ カルタネグロ/ブラック(キューバ)
・アンゴスチュラ ゴールド ホワイトリザーブ 5年(トリニダードトバゴ)
・アンゴスチュラ ダーク 7年(トリニダードトバゴ)
・ロン バルセロ ブランコ(ドミニカ共和国)
【テイスティング】
アンゴスチュラ 5年(トリニダードトバゴ)、40%
香り:樽由来のバニラ、ココナッツ、ぶどうやプラムのような赤いフルーツの香り、ブラウンシュガー、キャラメル
味:アルコールの刺激、樽由来のオーク、草っぽいハーブ感のあるビターさ、ほのかなブラウンシュガーやトロピカルフルーツの甘み。ウイスキーに近い味わいで、ウイスキー好きなら違和感なく楽しめる。
②グラス&ハーブ
サトウキビ搾り汁を蒸留ポッドや連続式蒸留器で蒸留されたもの。草やハーブのようなフレーバーが特徴的。カクテル向き。
・クレラン カシミール(ハイチ)
・トロワリビエール(マルティニーク)
・ガポヴィッラ PMG(イタリア)
・ナインリーブス クリア(日本)
【テイスティング】
クレラン コミュナル(ハイチ)、43%
香り:強烈でフレッシュな草とハーブの香り。い草や笹の葉、レモングラスやコリアンダー、アーモンド。バナナの葉で蒸した米、発酵させたバナナ、鮒寿司。泡盛のようなサトウキビ由来の黒糖のような甘さも強い。
味:泡盛にハーブ感を足したような味わい。ハブ酒のような癖。口当たりは泡盛のようで円やかで濃厚。ストレートは癖が強すぎるので、ロックにした方が飲みやすい。カクテルベースでも使えると思うが、癖が強いので注意。薄めると学校のカルキと藻臭いプールの水、消毒液のマキロン。
③トロピカルフルーツ
蒸留ポットで作られたもの。トロピカルフルーツのようはエステル香が特徴。
・ダモアゾー ヴィユー(グアドループ)
・ディプロマティコ プラナス(ベネズエラ)
【テイスティング】
香り:エステリーで乳酸感のあるマンゴーやバナナ、パッションフルーツのような南国フルーツの甘ったるい香り。木工ボンドや機械オイルのようなシンナー感のあるオイル香も強い。薄めるとグレナディンシロップ(ザクロ)やかき氷の苺シロップのような人工的な甘い香りに変化して面白い。
味:胡椒のようなスパイシーな口当たり。オレンジピールやグレープフルーツのような酸味でビターさのある甘さ、ハーブミックス、熟したマンゴーやバナナ。これもロックの方が旨い。オレンジジュースなどで割るのもありだと思う。薄めるとシロップのような甘みもよく感じられるようになる。
④フルーティ&スパイシー
蒸留ポッドと連続式蒸留器のコンビネーションで蒸留。スパイシーで樽の影響を多く受けた風味。
・アドミラル・ロドニー(セントルシア)
・マウントゲイ ブラックラベル(バルバドス)
・ワーシーパーク 10年(ジャマイカ)
・キャプテンモルガン スパイストラム(ジャマイカ)
・ナインリーブス エンジェルズハーフ(日本)
【テイスティング】
ドーリーズ XO(バルバドス)、40%
香り:シナモン入りのミルクカフェオレ、アーモンド、バニラ、ブラウンシュガーやキャラメルのような砂糖の甘み。オロロソシェリー樽で熟視させているだけあって、プラムやシェリーの香りもエレガント。
味:ややアルコール刺激はあるが、滑らか口当たり。塩キャラメル、バニラ、少しタンニン感のあるブドウの甘み、熟成由来のオーク感も強い
⑤ドライ&スパイシー
連続式蒸留器で蒸留され、ドライながら樽の影響を多く受けた風味。
・ブルガル エクストラ・ヴィエホ(ドミニカ共和国)
・ロン アブエロ 12年(パナマ)
【テイスティング】
香り:バターのクリーミーな香り、チョコレートや塩キャラメルの甘み、エスプレッソ感の強いあるモカ、クローブ、ほのかにローズマリーのようなハーブ感
味:口当たりはクリーミーだが切れ味良くドライ。チョコレート、タバコ、レザー、胡椒のようなスパイシーさ、ブラウンシュガーやバニラの甘み、ハーブのビターさ、オーク感も良く味わえる
⑥リッチ&シュガー
濃厚で甘口、樽の影響も多く受けた風味。
・ロン ザカパ 23年(グアテマラ)
・エル ドラド 15年(ガイアナ)
・ザフラ 21年(パナマ)
【テイスティング】
ディプロマティコ リゼルヴァ イクスクルーシヴァ 12年(ベネズエラ)
香り:ドライフルーツが入ったフルーツケーキ、メープルシロップ、ラムレーズン、ファッジ、デザートワイン、フルーツポンチ
味:ミルクチョコレート、サクランボのシロップ漬、ラムレーズン、ドライフルーツ、ミント、煮詰めたブラウンシュガーとバター。樽由来のオーク感も強いが、それ以上にシロップのような甘みが濃厚。
(3)入門方法
あくまでも個人的な感想ですが、以下のような基準で、好みのラム酒を探していけば良いのではと思います。
・6分類のうち④のリストから、1本選んで飲んでみる
もっとドライなタイプが良い→⑤へ
もっと淡麗なタイプが良い→①へ
もっとパッションフルーツのようなエステリーなタイプが良い→③へ
もっとハーブ感が強いタイプが良い→②へ
・このほかに、今飲んでいる蒸留酒の種類に応じた選び方も可能と思います
ウイスキーが好きな人→①④⑤⑥へ
焼酎・泡盛が好きな人→②③⑤へ
ジン・ハーブ酒が好きな人→②へ
シェリー酒が好きな人→④⑥
カクテルを作りたい→①②③へ
お菓子に使いたい→①④⑥
勿論同じ分類に属している銘柄でも風味は違っていますし、味の好みや感じ方は人それぞれなので決まった方法は無いですが、参考になれば幸いです。